第84章 戯れの関係〜織田信長〜
「やめてください!私、あなたなんて……っ」
「嫌い…か?」
信長様がひたりと落ち着き払った瞳で私を見る。
嫌われることなど、大した事ではないかのように。
彼は私にどう思われようと気にもとめない。
信長様の感情のない目が、そう私に告げる。
その事実に打ちのめされる。
…酷いことを言おうとしたのは私なのに。
私が傷ついてどうするの。
「嫌いなんて…言ってません。そんな失礼なこと、私は人に言いたくない。言葉で人を傷つけたくないんです…」
あなたを『嫌い』と思いたかっただけ。
そうしないと、心が辛いから。
あなたを求めそうで恐いから。
信長様は長いまつ毛を伏せ、皮肉げに微笑んだ。
「……別に傷つきはせん」
「嘘。そんな人、いませんよ」
「お前は優し過ぎる。俺なんかに優しくしなくてよい。心を砕く必要はない」
「やです。優しくしたいです、私…」
「誰にでもか?それとも…俺に?」
「わかってるくせに、言わせようとするのはやめてください」
「なに。お前の口から聞きたかっただけだ。つれないやつだな」
そう言いながら、長い指先で私の唇を触った。
さらっと信長様の前髪が揺れ、彼の目元を隠した。うっすらと微笑む信長様の形の良い唇に、目を奪われる。
「…信長様。前から言ってますけど…、思わせぶりなことを言わないでください。私、そういうのは苦手なんです。なんて返したらいいかわからなくて混乱します」
「そんなことは簡単だ。笑って流せば良い」
「もう!簡単じゃないですよ、それ」