第83章 涙色のままで〜明智光秀〜
石みたいにカチコチに固まったまま身を縮め動けずにいると、そんな私を抱いていた光秀さんが笑った。
「お前は抱きしめられたことがないのか?堅すぎて、まるで人形を抱いているかのようだ」
「あ、ありますよ…」
「……ほう?誰に?」
急に手を緩めた光秀さんにのぞき込むように見つめられ、どわっと耳まで赤くなるのがわかった。
顔が…ち、近い。
「家族…とか、友達に…」
「それだけか?」
「もちろん」
「信長様とは…?」
「何もないですよ」
「…もったいないことだな」
そう言いながら、光秀さんの顔が穏やかな微笑みに変わっていくのを見つめた。
「なら、作法を教えてやろう。まず、力を抜け」
ぎゅっと胸の前で力の入っていた両手を緩めると、その手を取られ、光秀さんの腰に回された。
すると、さっきより隙間なく抱きしめられる。
光秀さんの逞しい胸板を感じて、細身に見えても光秀さんの身体はこんなにも鍛えられいるのだと思った。
男の人なんだ…と改めて思う。
恥ずかしい。
でも、嬉しくて安心する。
ドキドキするけど、幸せだ。
私は、そっと光秀さんに身を委ねた。
光秀さんは何も言わず、私の頭を優しく撫でる。
何度も何度も。
ほっとした時、またじんわりと涙が出た。
グスッと鼻をすすると、光秀さんが「どうした?」と聞く。
優しくされて、また泣いてしまった。
「なんでもないです。あの…また来ても良いですか?」
「…あぁ。でも、次来た時の涙は褥で流して貰おうか。またそんな風に泣かれると、これ以上お前に手を出せない」
え?!
冗談…よね。きっと。
光秀さんの冗談はいつもわかりにくいもの。
私が黙ったままでいると、光秀さんがまた身体を離した。
驚いて顔を上げると、光秀さんの甘い眼差しにぶつかった。
「…ちなみに冗談ではないぞ?」
「えっ!光秀さんって心が読めるのですか?!」
「…ふっ。お前は本当に面白いな」
「だって光秀さん、いつも冗談ばかり言うから…」
「信じられないなら、このまま泊まって行くか?」
「え…っ」
「俺は本気だ」
目を逸らしてくれないまま、光秀さんが言う。
冗談じゃ…ないの…?