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イケメン戦国<私だけの小さな恋の話>

第81章 駆け引きは恋の始まり・中編〜徳川家康〜




「…何?どうかした?あんたらしくもない」

俺は、努めて落ち着き払って葉月を見つめる。
彼女の大きな瞳は潤み、涙が流れていないものの今にも泣きそうな顔をしていた。

「だって…嫌なの。家康と離れるの」
「だから言ったでしょ。今だけだって。秀吉さんと上手くいったら、また…」
「嘘!家康、嘘ついてる。家康は、私ともう話す気なかったでしょ?私、わかるんだから。家康は優しいから…気遣う人だから…もう、前みたいになれないって…離れていこうとしていたでしょ?!」
「だって、あんたが好きなのは秀吉さんでしょ。俺のことなんてどうでも…」
「よくないっ!どうでもよくなんてない。家康がいないと私…私…」

そのまま俯く葉月に俺は尋ねた。

あんなに痛かった胸が嘘みたいに軽くなる。
声も勝手に優しくなっていく。

「……『私…』が何?」
「…っ!あっ、そ、そうだよ。私、色気もまだ上手く出せてない。これは家康の責任だよ」
「俺の?!」
「そうだよ。それに私、まだまだ家康に教わりたい。だから、恋仲のふりを続けて欲しいの。私もっとできるようになるから。頑張るから」
「何、言ってるんだよ。めちゃくちゃだよ」
「めちゃくちゃでもいいもん、私」

葉月の涙はすっかり渇き、いつもの彼女に戻っていた。

「じゃあ今回のことは?どうするの?」
「ただの痴話喧嘩ってことで終わらせよう!ね、そうしようよ、家康」
「…喧嘩、ね」
「お願い、家康。私…家康と一緒にいたい」

……ここまで言われて拒否できるほど、俺は強くなかった。
俺の負けだよ。
深い溜息をつきながら、俺は頷いた。

「…わかった」
「やったー!」

今更ながら、俺が一切話を聞かずにこの子を振り切っていたら、今頃、秀吉さんとこの子は上手くいっていたのではないかと思う。
本当に俺は、何をやっているのだろう。
無意味過ぎる。
自分で自分が馬鹿らしくなった。

でも…

「家康、ありがとう」

こんな笑顔を見せられたら何も言えない。
仕方ない。もう少し付き合ってあげるよ。


その時、片足が沈んでいくような…堕ちていく感覚がした。
俺は、自ら三角関係の中に入ってしまったようだ。



きっと…この子無しじゃ駄目なのは、俺の方なんだろう。
もう戻れない。
駆け引きなんて、この子に教えてしまったせいで…。




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