第81章 駆け引きは恋の始まり・中編〜徳川家康〜
意味はあったらしい。
その証拠に、俺たちの夜の密会は、瞬く間に噂になった。
予想よりずっと早い。
他人の色恋沙汰に興味あるのが人の常だが、この噂話が葉月だから…というのもあるだろう。
政宗さんがそれを聞きつけ、愉しげに俺を揶揄い、信長様と光秀さんもそれに続いた。
三成がきょとんとするのは想定内だったが、一番反応して欲しい秀吉さんが何も言ってこない。でも、葉月とのことで揶揄われている俺を庇ったり、政宗さんたちを止めもしなかった。
…不気味だ。
怒っているのだろうか?
秀吉さんは、時々何を考えているかわからない。
どう振る舞えばみんなが幸せかを考えて行動する人だから。
あの人は、本心を隠す癖がある。
その辺、光秀さんと似ている。
だからだろうな、秀吉さんは光秀さんを嫌うのは。
自分の嫌な部分が似ていて、反発し合っているのだろうと俺は思っている。
「ねえ、秀吉さんに何か聞かれた?」
「…え?どうして?」
葉月での部屋で二人きりになった時、聞いてみたが…
この子のこの反応。
俺たちが噂になってるって知らないな。
政宗さんたち、葉月には何も聞かないで俺にだけ根掘り葉掘り聞いてきたのか。
葉月には敢えて何も聞かないで、様子を愉しんでいるんだろう。
この子は意識しちゃうとギクシャクしちゃうから…。
あの人たちもこの子の扱いを熟知しているらしい。
腹が立つくらいに。
「…あ!言われたよ。そういえば…今朝」
「なんて?」
「なんか深刻な感じでね。小声で『大丈夫か?』って聞かれたの」
「…それで?」
「『はい、大丈夫です!』って答えたよ。私、元気だし」
はあ……
俺はため息をつく。
きっと、それは秀吉さんなりの気遣いで小声で聞いたのだろう。
家康と噂になってるけど『大丈夫か?』という意味で。
お前は困ってないか、平気か?の意味だったはず。
それをきっと、体調を聞かれたと思って元気に返事したのだろうな…葉月は。
今回は、葉月が悪い。
せっかく秀吉さんから話しかけに来てくれたのに。
でも、手応えはあった。
秀吉さんも、ちゃんと気にはしているみたいだ。