第81章 駆け引きは恋の始まり・中編〜徳川家康〜
「いらっしゃい、家康。待ってたよ」
夜、葉月の部屋を訪れると、そんなことを言われ俺は照れた。
この子は天然なのか、俺を意識してないのか…全く普通だ。
俺の部屋に来た時は少し戸惑いを感じたけど、この子はもう夜に会うことに、慣れたのかもしれない。
昼間となんら変わらない態度で招かれ、そんな風に思う。
「あ、そうだ。家康…あのね、やっぱり謝ったの。秀吉さんに」
「あぁ、そう」
「ごめん、謝らなくて良いって教えてくれたのに」
「なんで間違ったことしてないのに、葉月が謝るんだよ。その方が良いと思ったんでしょ?それでいいんじゃない?で、大丈夫だった?」
「…うん、『俺も悪かった。』って言われたよ。すぐ仲直りできた」
「あ、そ」
「……そんなに興味ないような返事しなくても」
「あぁ。いや?そんなことないけどさ」
ただ、面白くないなって思っただけ。
でも、自分の否を認めてすぐ謝るのが、この子らしい。
そんな所が俺は好ましく思う。
素直で優しいんだ、この子は。
天邪鬼でひねくれている俺とは違う。
「…あ、あとね。昨日の夜に私に謝ろうとして、部屋に来てくれたんだって。留守だったから会えなかったけどって言われた」
「で、なんで答えたの?」
「え?えっと…家康の部屋に行ってたって…」
「…それで?二人で秀吉さんの気を引くために作戦を練ってたんです…って言ったわけ?」
「そ、そんなこと言ってないよっ!」
「ふうん、そう。あんた馬鹿正直に話ちゃったかと思った」
「そんなに私、阿保じゃないもん」
「葉月は阿保じゃなくて間抜けだもんね」
「ひ、ひどい…」
「嘘だよ。冗談」
あからさまに傷ついた顔をする葉月を見て、俺は笑った。
なんでだろうな。
この子といると、どうしてこんなに楽しいのだろう?
そして、笑いながら思う。
…どうして、この子の好きな相手が俺じゃないんだろう。