第80章 駆け引きは恋の始まり・前編〜豊臣秀吉・徳川家康〜
「家康って凄いんだねぇ…」
思わず溢れたような私の言葉に、家康は顔を赤くした。
「はあ?何が」
「ふふっ」
「…何笑ってるの」
私の知ってる、いつもの家康だ。
そのぶっきらぼうな物言いに安心する。
やっぱり家康はこうでないと。
緊張して話しにくいもん。
「まあ、これからはこれを意識して振る舞うことだね」
「でも…私にはかなり難しそうなんだけど…」
「じゃあ、秀吉さんのことは諦めるんだね」
「嘘です!やります。頑張るっ」
私が両手でガッツポーズをすると、「…ん、頑張って」と家康は私の頭を優しく撫でた。
私がびっくりすると、「秀吉さん風の励まし。似てた?」と家康は言って口元だけで笑う。
らしくない。
そんな家康、らしくないよ。
私は恥ずかしくなって、目を伏せた。
すると、家康は葉月と、ちょっと間を置いて私の名を呼んだ。
「聞きたかったんだけどさ。なんで秀吉さんを好きになったの?」
「…えっ。なんでって…」
そんなの知ってどうするの?
そう私は言いたかった。
そんなこと、あまり言いたくない。
上手く伝えられる自信もなかった。
人が人を好きになる理由なんて他愛もないきっかけが多いけど、私のはまさにそうだったから。
「そんなこと、なんで知りたいの?」
「普通に興味あるから」
「…くだらないって笑わない?」
家康はイラッとしたのか眉を顰めると、「人が誰かを好きになった理由を聞いて、笑う奴なんかいるの?」と聞き返してきた。
さも当たり前のように言う。
そうだった。
家康はそんなこと言わない。
他人の大切なモノを同じように大切にできる。
理解できなくても、受け止められる人だ。
「家康が笑うわけないよね。ごめん。ちょっと恥ずかしかっただけだから」
「…別にいいけど」