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イケメン戦国<私だけの小さな恋の話>

第80章 駆け引きは恋の始まり・前編〜豊臣秀吉・徳川家康〜



夜になり、私は言われた通りに家康の部屋を訪れた。
家康の部屋なんて何度も来たことがあるのに、夜の雰囲気のせいかまるで違う場所のように思う。
だからだろう。
部屋に通されても、いつものように話せなかった。
話題がまるで出てこない。
沈黙が続き、部屋が静かになればなるほど焦りが募った。

「……葉月、もしかして緊張してる?」

言葉に甘さを含ませて、家康は私の顔を覗き込んだ。
私はどきりとして、思わず下を向いた。
違うと言いたいけど、緊張してるのは本当だし否定できない。

だって、私をまるで恋人のように見つめてくるんだもん。
戸惑うのは仕方ない。
かっこよすぎて、どうしたらいいかわからない。
お芝居とはわかっているのに、私は間に受けそうになってしまう。

実際、家康はこんな風に恋人には優しく甘く話しかけるのかな?
そう思った時、胸がチクリとした。

「家康、いつもより口調が優しくて調子が狂うよ」
「…なんで俺が優しいと調子狂うの?俺、いつだってあんたには優しくしてるつもりだけど?」
「え…っ、そ、そうかな…」
「そうだよ」

また家康にじっと見られ、私は落ち着かなかった。
そうか。
家康はこれを言っていたのか。
異性として見られているとわかる目線。
家康の口元はうっすらと上がり、楽しんでいるように見えた。
喰われてしまいそうで、怖いし恥ずかしい。
でも、すごくドキドキしてしまう。
これが色気か。

ただ、見つめるだけでこんなにも効力があるなんて。

「家康…もうやめて…。恥ずかしいから」
「……ふうん。本当にやめて欲しい?」

家康は囁くように言うと、ゆっくり顔を近づけた。
キスされる?!
私が思わず目を瞑ると、家康がふっと鼻で笑ったのがわかり、目を開けた。
そこには、いつもの冷めた目をした家康がいた。

「コツはね、余裕を持つことだよ」
「よ、余裕…?」

私がほっとして聞き返すと、家康は私の鼻を人差し指でツンと押した。

「そ。嘘でも余裕を持って振る舞ってごらん。これも慣れだから。まずはフリからでもいい。俺の経験上、余裕からしか色気は出てこない」
「さっきみたいに?」
「そ。余裕を持って相手を見つめる。相手が戸惑ってしまうくらいに、ゆったりと…ね」


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