第80章 駆け引きは恋の始まり・前編〜豊臣秀吉・徳川家康〜
「秀吉さんに俺と恋仲になったなんて知られたら…って思わない?」
「秀吉さんは、そんなに私に興味ないよ」
「そうかな?ま、恋仲になる手前くらいの関係が良いよね。そういう雰囲気を出すつもりだから」
「…はあ、そうなの」
「他に男がいるって匂わすんだよ、秀吉さんに。あの秀吉さんのことだから、心配して聞きに来るんじゃない?葉月を気にかけることは増えると思う。」
「そうかなぁ…」
家康は知らないんだ。
秀吉さんが私に対して、全然興味ないって。
逆に『良かったな』とか言われそうだよ。
家康だったら安心だとかなんとか秀吉さんに言われるのが想像ついて、なんだか萎えた。
「……あんた、さっき葉月と噂になったら俺が困らないかって聞いたよね?」
「うん、聞いたよ。だって、こんなことしても家康には何も…」
「徳はないって?」
「そう」
「…葉月、俺はね、いつか…どこの誰かわからないような大名の娘と政略結婚するんだと思う。俺の結婚相手は、國の為になる相手だから…愛なんてない。仕方ないことだし、別に反抗する気もない。だから、俺は恋人を作らない。かと言って、政宗さんみたいに奔放に遊んだりする気もない。…そもそも、誰にでも靡くような女は嫌いだし。そんな女とは話す気にもならない」
そう話す家康は、口調は冷めているのに、目がどこか寂しそうだった。
誠実な人だな…と家康を見て思う。
その発言から家康の潔癖さを感じ、彼らしいなと感じた。
そもそも、家康が恋人を作らないのも、その相手を傷つけないようにする為じゃないだろうか。
結婚の約束が出来ない、別れるのが前提なんて残酷だもの。
あんな風に言ってるけど実際に結婚したら、家康は大切にするだろうと想像がつく。彼なりの誠意を尽くすだろう。
一生添い遂げると決めて、その相手にしっかり向き合っていくのが見える気がした。
そんな家康は、やっぱり素敵だと尊敬の念すら湧いた。