第80章 駆け引きは恋の始まり・前編〜豊臣秀吉・徳川家康〜
「家康…変。なんでこんなに私に教えてくれるの?」
家康には、何か考えがあるのだろう。
それがわからなくて、私は首を捻るしかなかった。
だって、家康は人の恋愛なんて、見て見ぬふりをする方だと思っていたから。
わざわざ私にここまで言う理由が浮かばない。
戸惑う私に、家康は楽しそうに言った。
「そんな不思議そうな顔しないでよ。俺は葉月の色気を出す方法を思いついただけなんだから」
「色気を出す方法?」
「そう。どう?………知りたい?」
「知りたい!知りたい!」
「なら…あんたは暫くの間、毎日、俺の部屋に来ること」
「え?家康の部屋に?」
「そう。寝る前に必ず、ね」
「……なんで?」
「俺とそういう関係だって知らしめる」
「何の為に?!」
私が慌てる様子が可笑しかったのか、家康は「まあ、落ち着きなよ」と宥めるように言った。
「……男の影が、あんたには全く無い。それが色気の無さに繋がってると思うんだよね。だから、俺と良い仲になる必要がある。特定の男と過ごすことで、妙な艶みたいなものが出て来ると思うから」
「それって、私は家康と恋仲のふりをするってこと?」
「そ。察しが良いね」
「……家康は、良いの?」
「何が?」
「もし、そのせいで私なんかと噂になったりしたら…その…困らない?」
「…別に」
心配になって聞いても、家康から何でもないように答えられてしまう。
私には、わからなかった。
そんなことして意味があるのか。
そもそも、家康には何もメリットなさそうなのに。
私と噂になったり、二人で過ごすことが家康の迷惑にならないのだろうか?
私があれこれ考えていると、クスッと家康が笑った。
「……あんたって、自分のことじゃなくて俺のことを心配するんだね」
「だって、私のせいで家康の印象が悪くなったら嫌だし」
「…秀吉さんに勘違いされる方を心配するんじゃないの?普通は」
「あっ…」
確かに。
そっちを考えてなかった。