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イケメン戦国<私だけの小さな恋の話>

第80章 駆け引きは恋の始まり・前編〜豊臣秀吉・徳川家康〜




「…葉月」
「あ、家康…」

何時間くらい身を隠していたのか。
家康から声を掛けられるまで、私はこの世にいないような気がしていた。
涙は出なかった。
でも、悲しくてずっと空を見ていた。
空を見ていないと、自分を省みてしまいそうだった。
不甲斐ない自分を。

秀吉さんは何も悪くないのに、あんな言い方をしてしまったから。


「ー…そういう所が子どもっぽいんじゃないの?」

家康の言葉に驚き、私はバッと家康の顔を見た。
もしかして見られていたのだろうか?

「家康、見てたの?」
「見てたんじゃないよ。たまたま目に入っただけ」
「…それって同じじゃないの?」
「微妙に違う。別に見たかったわけじゃないし」

そう言って家康は肩をすくめた。
私が目を伏せると、励ますように「ま、秀吉さんは鈍いから…きっとあんたの気持ちには気づいてないよ」と言った。

「……え?あ、えっと…」
「ん?違った?」

家康にしては珍しく、ちょっと笑って私を見た。
気づかれたことと、見られていたことの二つが恥ずかしくて胸がドキドキした。
私は『そうだ』とも『違う』とも言えず、黙るしか出来なかった。
そんな私の態度に家康は確信を得たように頷くと、「…で、どうするの?」と尋ねてきた。

「どうするのって?」
私が聞き返すと、家康は言った。

「秀吉さんに対してだよ」
「……謝る。私が悪いんだもん。勝手に悲しがって、勝手に怒ったりして」

家康もそうするべきだと言うと思った。
彼は、素っ気ないけど礼儀にはうるさいし、私が悪いのは明白だったから。
でも、家康の答えは違った。
「………馬鹿だね。あんたは」
と、言ったのだ。

「え?なんで馬鹿?」
「そんなんだから、子ども扱いされるんだよ」

意味がわからなくて思わず眉を寄せると、家康は何かを含ませるように薄く笑った。
なんだか、悪巧みをしているように見えて私は焦った。




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