第79章 満月には、ありのままの気持ちを…〜明智光秀〜
私は本人が不在の光秀さんの部屋に通され、座って待っていた。
相変わらずよく片付いていて、驚くくらい物がない。
そんな光秀さんの部屋からは、月がよく見えた。
ずっと眺めていると、部分的に月が隠れて指輪のような形になった時…今日が佐助くんが言っていた月食の日だと気づいた。
そうだ!
月食ってすごく珍しいのよね。
太陽と月と地球が一直線に並ぶ日だもの。
幻想的で、なんだかロマンチックだ。
何百年に一度のタイミング。
それが、好きな人の部屋から見れるなんて。
私は手を伸ばし、人差し指と親指で月を掴んだ。
球体の周りだけが光っていて、ダイヤの婚約指輪のようだった。
「光秀さんにも見せたかったな」
「……ほう。可愛いらしい言葉だな」
私の顔の横から光秀さんの整った横顔が現れ、私は飛び上がった。
「…っ!光秀さん、また…。びっくりさせないで下さい」
「俺の部屋だ。断らないで入るのは当然だろう?」
「またわざと気配を消しましたね?!」
「さあ?では、今度からは秀吉のように豪快に足音を鳴らそう」
そんな気、ないくせに。
いつものように軽口を叩き合っていた私たちだったが、また視線が月に戻る。
私は光秀さんの腕を引っ張りながら、「ね?ね?綺麗じゃないですか?」と興奮しながら言った。
光秀さんは目を細め、月を見上げると、「そうだな。今宵は変わった形だな」といつもように静かに答えた。
「あらゆる条件が揃わないと見れないんですよ?光秀さんは見れてラッキーですね」
「らっきー?」
「あ、えっと…幸せですねという意味です」
「……そうだな。幸せだ」
月ではなく、私を見ながら甘く微笑む光秀さんの笑顔が、微かな月の光で影ってよく見えない。
暗くて良かった。
私の頬が赤らむのを見られないで済む…。
そう思ったのに、私は気づいたら、光秀さんの形の良い唇に自ら唇を合わせていた。
自分の行動に自分が一番驚き、私は離れながら謝った。
「…あっ、ごめんなさ…っ。私…」
「葉月…」
すぐさま腰を抱かれ、離れるどころか更に近づき、光秀さんとの距離が狭まる。