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イケメン戦国<私だけの小さな恋の話>

第79章 満月には、ありのままの気持ちを…〜明智光秀〜



御殿に着いた時、日がちょうど沈む頃だった。
真っ赤に染まった空が目の前に見えて、思わず立ち止まってしまう。
情熱を感じるような、燃えたぎる茜色。
周りの雲を染めあげている。

「……綺麗だなぁ」
「そうですね」

久兵衛さんが私の独り言のような言葉に応えてくれた時、なんだか嬉しかった。
そして、これから逢うであろう人のことを想うと、緊張で手先が冷たくなっていく。

「久兵衛さん…あの…。私、何処か変じゃないですか?」
「何処も変ではありませんよ。葉月様はいつもお綺麗です」

…そんなあっさりと綺麗って…。
可愛いはたまに政宗や秀吉さんが戯れに言ってくれるけれど、綺麗だなんて言われ慣れない。
お世辞だとしても、私は言葉を返せなかった。
私が驚いたまま黙っても、久兵衛さんは恥ずかしがることなく静かに微笑み、歩き出した。

「葉月様はそのままでいれば良いと思いますよ。気負うことは何もありません。いつも通りのあなたで、光秀様との時間を楽しまれて下さい。…今宵は満月ですから」
「満月って何か特別な意味があるんですか?」
「満月という日は、動物はみな本能のままになると聞いたことがあります。隠していた気持ちや事柄も明るみに出やすい時なのです。光秀様は、交渉の時に満月を選ぶことが多いですから」
「光秀さんらしいですね」
「…確かに」

門の前に着くと、一呼吸置いて「では、わたくしは此処で」と久兵衛さんは私にさっと頭を下げ、来た道を戻って行った。
ぼんやりしてその後ろ姿を見送っていたが、はっとして「久兵衛さん、ありがとうございました!」私が手を振りながら声を掛けると、すぐ振り向き、会釈をして答えてくれた。
感じの良い方だな…。
彼も多忙の中、それを悟らせないよう振る舞ってくれたのではないだろうかとふと思った。

…光秀さんもそう。
悟らせないのが上手い人だ。

そう思い出し、私は光秀さんのお城を見上げた。
あぁ、着いてしまった。
どうしよう。

ー…私、上手く話せるかな?





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