第79章 満月には、ありのままの気持ちを…〜明智光秀〜
そんな風に悶々としていた、ある日…
『ー…葉月へ
今宵は月でも見ながら晩酌でもしないか?
御殿で待っている。
明智光秀』
仕事が終わって自室に戻ってみると、光秀さんからの手紙を部屋で見つけ、私は驚きのあまり叫びそうになった。
不意打ち…っ!
私から動かないと駄目だと思っていたのに。
まさか、光秀さんから連絡が来るなんて。
思いっきり頬をつねってみても、
顔を叩いても
ものすごく痛かった。
「…夢じゃない」
そう、これは夢じゃない。
鬱々と考えていたのが阿呆らしくなるくらい、一気に有頂天になった。
しかも、念願の光秀さんからの手紙だった。
何度も何度も読み、自分の名前を確認して、『明智光秀』と書かれた文字を指でなぞった。
「嬉しいな…」
言葉で出すとまた一層嬉しさが込み上げてきた。
光秀さんに誘われたのは初めて。
夜、二人きりで逢うのも…初めて。
もう、気づけば日が傾いている。
私は急いで身支度を整え、光秀さんの御殿へ向かった。
暫く歩いていたが、途中で道がわからなくなり、キョロキョロと辺りを見渡した。
…あれ?道を間違えたかな?
すると、遠くで此方に向かって会釈をする男性を見つけ、それが久兵衛さんだとわかると、私は小走りで駆け寄った。
「久兵衛さん…こんにちは。あの…」
「お迎えに参りました、葉月様」
「…お迎えに来て下さったのですか?」
「ええ。この時期は日が沈むのが早いので」
「光秀さんに頼まれたのですか?」
「はい」
「そうですか…」
「きっと、葉月様は道に迷われるだろうと気にされていました。光秀様は所用がありまして、代わりに私が」
…うっ。
そこまで予想されていたとは。
さすが、の一言に尽きる。
「ありがとうございます。本当に迷っていたので有り難いです」
「…迷われていたのですか?本当に?」
「はい…そうです」
私が情けない顔で答えると、久兵衛さんの肩が少し揺れ、口元を抑えているのに気づき、笑われているとわかった。
「…久兵衛さんも笑ったりするんですね」
「失礼致しました。なら、私が来た意味がありましたね。では、参りましょう」
「はい、よろしくお願いします」