第79章 満月には、ありのままの気持ちを…〜明智光秀〜
「そんな顔をするな」
「だって、光秀さんすぐ揶揄うから…」
「……悪かった。どうしたらお姫様の機嫌が直る?」
「じゃ…じゃあ…この間手紙の返事…下さい」
「返事、ね」
「だって、光秀さん全然くれないんだもん。私がずっと待ってるの、気づいているはずなのに」
私が不満げに言うと、光秀さんの眉が片方だけ上がった。
「それなら、ちゃんと用意してある」
「本当ですか?!ありがとうございます」
「……ほら、此方に寄れ」
「え?」
おでこに柔らかい感触を感じ、私は一瞬意味が分からず固まった。
光秀さんが私のおでこに優しくキスをしてくれたとわかった時、私は言葉を失った。
やや時間をおいて、光秀さんが口を開いた。
「これが俺の返事だ」
「な、なんで…」
「次はもっと色気のある手紙を持って来い。その時は、此処にしてやる」
そう言って、人差し指でゆっくりと私の唇をなぞった。
すぐ意味がわかり、一気に身体中の熱が上がった。
「なんだ?もう欲しくなったのか?」
「ち、違う。…違います!」
「そうか。それは残念だ」
私の言葉に肩をすくませる光秀さんは、残念そうには見えなかった。
素早く光秀さんの上から降りると、自分の顔を両手で隠した。
顔が赤くなっていき、恥ずかしさで居た堪れなかったのだ。
光秀さんもゆっくりと起き上がり、片膝だけ上げて座ると、その膝に手を乗せ話し始めた。
「…葉月、今日は新月だ。新月にした願い事は叶いやすい…というのは知っているか?」
私が首を振ると、光秀さんが薄く笑った。
「お前が素直な気持ちを伝えられるようになること…それが俺の願いだ」
「私の…気持ち?」
「俺だけではなく、誰に対してもだ。いつかお前の胸に秘めた想いや感情を、ありのまま吐き出せるよう願っている」
光秀さんはそう言って立ち上がると、落ちていた手紙を拾い、私に差し出した。
「…それまで、待ってやろう」
「光秀さん…」
「長居したな」
ふっと笑って、光秀さんは部屋から出て行った。
その姿を見送りながら、私はまだ心臓がドキドキしていた。
わかったことは、光秀さんが私の気持ちに気づいているのかもしれないということ。
そして、私の想いを受け止めようとしているのかもしれない…ということだった。