第79章 満月には、ありのままの気持ちを…〜明智光秀〜
「………そうか。無理矢理聞いて悪かったな」
「いえ。私こそ…」
「長い手紙を煩わしいとは思わない」
「え?」
「お前からのなら、尚更だ」
そう言って、光秀さんは優しく頭を撫でてくれた。
「変に気を遣いすぎるな。誰に貰うかにもよるだろう?重いかどうかは。少なくとも、葉月からの手紙なら思ったりしない」
「そう…ですか?」
「あぁ。本人が言うんだから、間違いない。手紙は、嬉しかった。当たり障りない内容でも」
「本当ですか?」
「お前らしい、可愛らしい文章だった。想像通りのな」
「…想像通り?むぐっ」
「しっ…」
光秀さんが私の口を片手で覆って、自分の口に指を当てて静かにのポーズを取った。
「ー…葉月?」
伺うように、襖から秀吉さんの声がした。
「声がしたと思ったんだが…。いないのか?」
秀吉さんの独り言のように呟く声が聞こえた後、私は光秀さんに囁いた。
「ちょっと光秀さん、何で私まで隠れるんです?」
「お前。今の俺たちを見たら、言い訳のしようが無いぞ?」
「えっ?!だってこれは…っ、転んだのを庇って貰っただけですよ。話せばわかってくれますよ」
「どうだかな。しかも、彼奴の説教は長い。想像しただけでうんざりする」
「…じゃあ、離して下さい。私だけ出て行きますから」
「それは無理だな」
「何で?!」
「…離れがたいから」
「なっ……!」
「それに、お前に見下ろされるのは気分が良い」
「私は良くありません」
「…そうか?なら、善くしてやろうか?」
光秀さんの手がゆっくりと背中を伝って、「ひゃっ…!」と声が出た。
「……葉月?いるのか?」
「あっ!秀吉さん。ごめんなさい、開けないで。今、着替えてて」
「…っ、すまん!そうだったのか。また改める。じゃ、じゃあな」
バタバタと走り去る音がして、私はホッと息を吐いた。
「…彼奴、動揺し過ぎだな。いやらしい奴だ」
「どっちがですか。もうっ!この状況を面白がらないで下さい!」
「お前の反応か可愛らしくて、つい…な」
可愛らしい…だなんて。
そんな風に言われたら、怒るに怒れない。
私はにやけそうな顔を誤魔化したくて、口を尖らせて光秀さんをちょっと睨んだ。