第79章 満月には、ありのままの気持ちを…〜明智光秀〜
「…葉月」
「はい……」
「此方を見ろ。聞きたいことがある」
「や、です」
「そう言うな。お前は良い子だろう?」
…これはもう逃げれない。
私は観念して、光秀さんの方を見た。
「…そうだ。しっかり俺の目を見て質問に答えろ」
「は、い」
「葉月…あの手紙はいつ書いたものだ?」
「あ、あれは…」
「お前が嫌なら勝手に見たりはしない。安心しろ。ただ、あの手紙をいつ書いたか気になるだけだ」
「いつ…?それを聞いてどうするんですか?」
「確かめたいだけだ。お前が俺に渡そうとしたのは、あの『当たり障りのない手紙』ではなく、此方の手紙ではなかったのか…とな」
「あ…っ、ち、違います」
「違う?本当か?」
バクバクバク…。
こんなに密着していたら、私の心臓の音が光秀さんに伝わってしまうのではないだろうか?
嘘偽りに敏感なこの人が、騙されるわけない。
でも、素直に言うのも恐い。
素直に伝えて、この関係が変わってしまったら…。
私の願いとは違う結果になってしまうのが恐くて、言えない。
その先を考えてしまい、私はいつも動けない。
「…葉月」
優しく名前を呼ばれ、私は決意した。
「……本当は、本当は…其方の手紙を渡そうと思ってました。でも、すごく長くなってしまって読みにくいかなって。重いかなって思って…書き直したんです」
私は一気にそう言うと、最後に「…それだけです」とぽつりと呟いた。
嘘ではない。
本当にそうだった。
光秀さんへのお礼や想いを書いていたら、長くなってしまったのだ。読み返したら、あまりにもあからさま過ぎてやめた。
好きだとは書いていないが、『好き』がバレバレな手紙である。
渡せない。
そう判断したのだ。