第79章 満月には、ありのままの気持ちを…〜明智光秀〜
「光秀さん?!どうしたんですか?私に何か用でも?」
「…ちょっとな」
光秀さんは少し首を傾けて私を見ていた。
いつから此処にいたのだろう?
全く気配を感じなかったのに。
私は思わず「あっ」と声を上げた。
「私、光秀さんに呼ばれてました?」
「……ああ」
「あ、そうだったのですね。気づかなくてすみません」
やっぱり、そうだったのか。
そうよね。
勝手に光秀さんが私の部屋に入って来るわけないもんね。
私が反射的に頭を下げて謝ると、ふっと光秀さんが笑ったような気がして顔を上げた。
「…もしかして、嘘つきました?」
「いや?」
口元を抑えて笑う光秀さんが怪しすぎて、私は眉を寄せて問いただした。
「本当は呼んでなかったんですか?」
「…呼んだぞ。心の中で何度もな」
「それは呼んだことになりませんっ!」
「そうか。それは悪かったな」
全く悪びれず、光秀さんは言った。
愉しげに目が笑っている。
いつもの意地悪な笑顔だ。
私は少しむくれながら「一体何ですか、用って」と聞いた。
「何、大したことではない。お前の部屋から話し声がしたので入ってみたら、俺宛の手紙を見つけたのでな」
そう光秀さんは言って、不敵に笑いながら私にその手紙を見せた。
「え…っ。あ、ダメですっ!それは…っ」
「何故だ?『光秀さんへ』と書いてあるぞ。俺への文だろう?」
それは、文机に置きっぱなしにしていた、渡せなかった方の光秀さんへの手紙だった。
私は慌てて、光秀さんから奪い返そうと手を伸ばす。
だが、光秀さんはそれを頭の上まで持ち上げたので、私には届かなかった。
「返して下さい!」
「その慌て様、余計に見たくなるな。何が書いてあるのだ?見られたら拙い内容か?」
拙いどころの騒ぎではないっ!
私は飛び上って、手紙を取ろうと光秀さんに向かうしかなかった。
「…本当にっ、本当にそれはダメです……きゃっ!」
「おい、葉月…っ」
体勢を崩した私を助けようと、光秀さんの手から手紙が離れ、ひらひらと手紙が落ちて行った。
天井が見えた時、あっ、頭をぶつける!そう思い、私は目を瞑った。