第79章 満月には、ありのままの気持ちを…〜明智光秀〜
秋晴れを感じる、澄み渡った青空。
この空が。
太陽が。
私を応援してくれている。
そう勘違いしてしまうくらい、気持ちの良い天気だった。
雲ひとつない青空が、私の背中を押したのだ。
ギリギリまで諦めていた気持ちを奮い立たせ、お城で光秀さんを探した。
見つけ出した瞬間、私は駆け寄り「あの…っ、光秀さん!」と声を掛けた。
少し驚いたように振り向いた光秀さんの顔を見て、一瞬勇気が萎みそうになった。
でも、怯む前に私は勢いよく光秀さんに本を差し出した。
「本、ありがとうございました!」
そう言って、貸して貰った本と一緒に手渡した手紙。
目敏く見つけ、光秀さんの口の端が上がる。
長い指先で手紙を持ち、顔の横でひらひらと動かしながら意地悪そうに光秀さんは笑った。
「…葉月。これは、俺への恋文か?」
「……っ!?ち、違います。ただの手紙です。でも、落としたりしないで下さいね。見られたら恥ずかしいので」
「…ほう。見られたら恥ずかしい内容が書いてあるのか?」
「いえ。変なことは何も書いていません。当たり障りないことしか…」
「なら、なぜ?」
「他の人に見られたら、勘違いされちゃうでしょう?手紙って」
「勘違い、されたくない相手でもいるのか?」
…違うけど。
そうじゃないけど。
誰にも冷やかされたりしたくないの。
それくらい恥ずかしいから、ちゃんと持っていて欲しいだけ。
二人だけの秘密にして欲しいだけ。
「そんな人、いないです」
…光秀さん以外には。
私の返答を聞き、小さく息を吐くと「そうか」と光秀さんは低く呟いた。
「わざわざお前から手紙を貰うとはな」
意外そうに言われ、実は何度も何度も書き直したことや好意が伝わるような内容を書こうかとかなり悩んだのだと全部言いたくなった。
本当は好きだと
ずっと心にあなたがいる、と。
でも、その先が怖いから書けなくて…
結局、ただのお礼の手紙にしかならなかったことも。