第78章 口約束でも構わない〜上杉謙信〜
「…俺が乗せてやろう」
「本当ですか?やったぁ」
軽い口調で返すしかなかった。
実現しないことなど、私が一番わかっていたから。
「ー…何処かに行きたくなったら、俺を呼べばいい。どこへでも連れて行こう」
その言葉が沁みて、じんわりと身体の中に落ちていった。
あぁ、謙信様。
その言葉がもし、その場凌ぎでも。
嘘でも構わない。
嬉しかった。
ただ、嬉しかった。
あなたが私に言ってくれた、その言葉が…
そっと私に届けるように優しく聞こえたから。
まるで本当にそうしたいかのように、聞こえたから。
叶わなくてもいい。
そんな風に言ってくれた、事実があれば。
こんなにも幸せになれました、謙信様。
「…ありがとうございます……」
見上げた空が祝福してくれたかのように、私たちを照らした。
いつだって口数の少ない
そんなあなたがくれた、初めての口約束。
…今夜はきっと、嬉しくて眠れないだろう。