第6章 妹以上恋人未満〜豊臣秀吉〜
ふと、急に秀吉さんの顔が何かを見つけて険しくなる。
「これはなんだ?」
秀吉さんが私の首筋を見て言った。
忘れていた。信長様の悪戯の跡を。
「あっ違うの。これは…」
私は慌てて片手で首の赤い跡を隠す。
「誰にやられたんだ?まさか…光秀?」
えっ!なんでそう思うの?!
光秀さんにやられたって言えと信長様には言われたけれど、言う前に光秀さんの名前が出てくるなんて。
私はびっくりして否定するのを忘れてしまった。
「やっぱり…アイツなんだな」
秀吉さんの眼がメラメラと怒りに燃えてきているのを感じ、私は秀吉さんの腕を引っ張る。
「ち、違うよ!秀吉さん」
「なんで庇うんだ?!アイツ、やたら最近お前にちょっかい出していたのを俺が知らないとでも思っているのか?」
秀吉さんが拳を握りしめ、私の顔を見た。
「まさか…お前の好きなやつって…」
「秀吉さん、あのね、違うの。これは…」
私の言葉も聞かず、苛立つように私の手を掴むと、妖しく笑った。
「気が変わった。アイツに盗られるくらいなら、俺が貰う」
「秀吉さん、待って…」
「待たない」
変なスイッチが入ってしまったのか。
もう秀吉さんの耳には何も届かない。
私が何か言おうとしても唇は塞がれるし、秀吉さんの手が、指が私の思考を止めてしまい、ちゃんと話せない。
「す、好き…。私、秀吉さんが好きなの」
秀吉さんに羽交い締めにされながらも、やっと想いを伝えられた。
「俺もだよ」
そう言われたけれど、ちゃんと伝わってはいない気がした。
もう欲望のままに暴れ出している秀吉さんには、早く冷静になって貰わないと聞いてはくれない…。
私は諦めて、身を委ねた…。
ーー…「悪かった」
やっと冷静になった秀吉さんは、さっきから私に頭を下げている。
私は乱された着物をかき集め、秀吉さんを見た。
「私、光秀さんのことは、そういう目で見たことありません」
「すまん、俺の早とちりで」
「だって…私の好きなのは秀吉さんだもん」
「ほ、本当か?」
「うん、ずっと前から。それなのに…酷い」
「ありがとう。嬉しいよ」
「私も…。あんなに必死になるくらい想って貰えていたなんて、知らなかったから。嬉しい」
「葉月…改めて言わせてくれ。愛しているよ」
私はその逞しい腕の抱かれ、微笑むのだった。