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イケメン戦国<私だけの小さな恋の話>

第1章 朝が来るまで待って 〜明智光秀〜


そこから私の記憶はほとんどない。
女中さん達が食事を運んでくれて、布団も2枚敷いてくれた。

光秀さんの部屋で光秀さんと2人きり。
信じられない思いで私はずっと見つめている。
光秀さんはまるで私はいないかのように1人でお酒を呑んでいる。
銀色の髪が時々顔にかかり、影を作る。
それすら美しく見える。

光秀さんは夜が似合う、と思う。
夜の雰囲気が、光秀さんらしさを感じさせるから。危うさと切なさと…先の読めない小説のような。

手の届かない人だった。
明智光秀は私にとってそういう存在だ。眺められるだけで良かった。
少し会話できるだけで良かった。
その姿を視界に入れられるだけで…なんなら、私のことを少しでも視界に入れてもらえるだけで。

でも、今、私は、この光秀さんを一人占めしている。
私が、私だけが光秀さんとの時間を共有している。
倒れてしまいそうだ…。
嬉しくて幸せ過ぎて、何も考えられない。
時が止まれば良いのに。
そう願わずにはいられなかった。

「どうした?」

きっと、この人は今日のことをすぐに忘れてしまうのだろう。
私はきっとこの夜を一生忘れられそうもない。

「そんなに見られると穴が開きそうだ」
妖しく笑う。
なんて綺麗な顔だろう。
目が奪われてしまう。

「ご、ごめんなさい」
「そんなに俺の顔が珍しいか?」
「いえ…。今日は優しいなと思って」
「いつも俺は優しいだろう?」

「そうですか?」
「ほう…違うと?」
「違いますよ。いつも意地悪です。あの天邪鬼の家康の方がよっぽどわかりやすく優しいと思います」


「俺の前で他の男の名を出すとは…良い度胸だ」

「いつからあんなに親しくなったんだ?」

からかいの含んだ目でそう聞かれた。
宴の時のこと?
私のことを見ていてくれたの?
それだけで、心の中がじんわり熱くなる。
なんてことない、ただからかっているだけだ。

そう自分に言い聞かせても浮き立つ気持ちは止められなかった。

「お前も呑むか?」

そんな優しい声で言われたら断れない。
私はお酒は強くないけれど。
せっかくのお誘いだもん。呑まなければいけない気がした。

「ありがとうございます」

そう答えて受け取ると、光秀さんは微笑みを含んだ大人な目で私を見つめる。

「良い子だ」

もう酔っている気がした。
この状況に。光秀さんに。
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