第1章 朝が来るまで待って 〜明智光秀〜
「着いたぞ」
そこは安土城ではなかった。
「ここ、どこですか?!」
「私の城だ」
「冷えただろう?湯浴みをしてこい。お前が風邪をひいてどうする」
「え、でも…」
そう言って、光秀さんは居なくなっていた。
その後は、あれよあれよとお付きの方々に世話を焼かれ、湯浴みをし、着物まで借りてしまった。
「失礼します」
「入れ」
手が震えている。
でも、努めて明るい表情を作って光秀さんの部屋に入った。
「温まりました。ありがとうございます」
「そうか」
そう優しく微笑む。
そんな光秀さんに私は面食らった。いつもの意地悪な笑顔とは違う。
こんな顔も出来るんだ…。
「なんだ?」
「あ、いえ…。お世話になりまして。あの、私お城に帰ります。」
そう言うと
ゴロゴロゴロ…ドッカーン!!!
すごい音の雷の音がなり、私は飛び上がった。
「きゃぁぁ!」
タイムスリップ以来、雷は苦手になっていた。
自分のいた時代に帰りたいとは思っていても、あの中にまた行くのはちょっと…いや、かなり無理だと思う。
耳を塞いで震えていると、私の手の上に温かさを感じた。
光秀さんがその上から手を重ねてくれていた。
「大丈夫か?」
「…はい、すみません」
今日の光秀さんは優しい。調子が狂ってしまう。
その手から体温を感じ、じわじわと熱くなる。
ふわっと何かに包まれたかと思うと
私は、光秀さんの腕の中にいた。
「これで怖くないだろう?」
頭の上から声がする。
はい、怖くないです。
でも、これは…色々無理です。
「はい…」
そう答えるので精一杯だった。
雨の音が私の心臓より煩く響いている。
「今日は泊まっていけ」
「え!で、でも…」
「こんな雨の中、帰るつもりか?」
「急にそんな…ご迷惑じゃ」
「このまま帰した方が秀吉から説教をくらいそうだ」
「…」
「そうだろう?」
「は、はい。そう、ですね…」
どっちにしても叱られる気がした。
でも、光秀さんに抱きすくめられている私にはもう何も考えられなかった。
「心配しなくても何もしない」
「え?!」
「なんだ、期待させていたか?それは悪かったな」
「ち、違います!」
顔を見なくてもわかる。
今、絶対いつもの意地悪な顔で笑っているんだ。
それなのに、この心臓は静かになってくれない。
ますます彼が面白がるだけなのに。