第77章 時には野獣のように〜真田幸村〜
戦場から戻ったばかりの夜。
噛みつくような荒々しいキスを受け止めながら、必死に私は幸村に訴えた。
「や…、やめて。幸村…」
私は息切れしながらも、力の入らない拳で幸村の胸を叩いた。
そんな事は気にも止めないかのように
「…ぜってぇやめねぇ」
そう、幸村は言い放った。
あの少年のような幸村は、何処かへ行ってしまったのだろう。
私の目の前にいる人は、まるで知らない男だった。
獣に取り憑かれたかのように私を貪欲に求めてくる幸村の目は、血走っていて怖いくらいだった。
「だ、だめだよ。傷が開いちゃう…から…」
混乱した頭の中で、何度もダメともっとが交互に飛び交う。
葉月と名前を甘く呼ぶ幸村に、なす術がない。
口づけに溺れそうになりながらも、幸村の包帯姿が痛々しくて、我にかえった。
幸村の腕にぐるぐると巻かれたその白い布からは、うっすらと血が滲んでいる。
何度も心配の気持ちが勝るのに、幸村自身がそれを阻む。
「構わねぇよ。明日、身体が動かなくなっても良いから…お前が欲しい」
「幸村…」
そんな風に求められて、喜ばない人間なんていないのではないだろうか。
…ずるいな。
幸村って、計算なくそういうことを言えちゃうのよね。
いつもがぶっきらぼうなだけに、余計に効力がある。
そんな素直さが可愛いらしくて、憎らしい。
覆い被さってきた幸村を、私は諦めの気持ちで眺めた。
抵抗しなくなった私の頬に触れながら、『良いか?』と哀願されるような眼差しで見られて私は頷いた。
「葉月…」
「でも、無理しないで。本当に…」
「わかってるって」
…絶対わかってない。
でも、こうなってしまった幸村を止める方法なんてない。
幸村からの行為に応える私の声は、いつもより甘ったるくて…悦んでいるのがよくわかる。
「は…あ。なんだよ、その声」
「…だめ?」
「……すっげーイイ」
ー…愛してるよ、葉月…
褥でしか聞けない幸村の愛の言葉を全身で浴びて、より一層声が上がった。
激しく愛される怖さと幸せを感じながら、夜は更けていった…。