第76章 君が嫌いな君が好き〜蘭丸〜
ー…自分の存在が、存在そのものが無意味だと思う時がある。
『お前なんて要らないよ』
そう言われているような。
全てから見放されているような…
そんな時がある。
そういう時は大抵、鏡に映る自分を直視出来ない。
自分で自分を拒否してしまう…。
私が私を否定したら、誰も味方なんていなくなるのに。
そう、わかっていても這い上がれない。
そんな時。
誰かに優しくして貰いたくなる。
いつもより、ほんの少しで良いから。
あぁ、私ここに居て良いんだって。
思いたいから…。
誰でもいい。
誰でもいいの。
私に言って。
「君がいて良かった」って…。
誰かに必要とされたいの。
………
夕暮れをずっと眺めていた。
城下にある橋の上。
たった一人で。
私の後ろをたくさんの人達が通り過ぎていく。
それを背中で感じ、益々自分だけ取り残されている気分になった。
「わぁ!綺麗な夕焼け」
急に声がして驚くと、横に蘭丸くんがいた。
…び、びっくりした。
そんな私に構わず、蘭丸くんは空を見ながら話し出した。
「でもさ。夕焼けって…美しい分、なんか寂しくならない?自分だけが置いていかれて、ひとりぼっちになったみたいな…そんな気持ちになるんだよね、俺」
蘭丸くんもそんな風に思うんだ…。
私と感覚似てるのかな?
私もそんな風によく思う。
「うん、すごくわかるな。私も同じ」
「そう?良かった」
「…蘭丸くん、あのね…」
「ん?なあに?」
にっこりと笑い、蘭丸くんがやっと此方を見た。
ー…私って必要かな?
そんなことを聞きたくなった。
蘭丸くんなら、嘘でも言ってくれるだろう。
『勿論、必要だよ!』
まるで当たり前のように…
私に笑いかけてくれるだろう。
私の欲しい言葉をくれるだろう。
夕陽よりも美しい蘭丸くんの顔が私の心まで照らし、その明るさと相まって自分の暗さが際立った。
あぁ、蘭丸くんは綺麗だな。
そう思った。