第75章 告白〜明智光秀〜
私が秀吉さんの背中を見送っていると、私を呼ぶ声がした。
「ー…葉月、そんな寂しそうな顔をして。兄離れが出来ないのか?お前は」
「光秀さん…」
「そんな切なそうな顔をされると、妬けるな」
ちょっと揶揄いを含んだ言い方をするのは、光秀さんなりの優しさだ。
掬い上げるように、私の落ち込んだ気持ちを軽々と救ってくれる。
あくまで自然に。
この人のこういう所が、私は好きだ。
私は光秀さんを見て、ちょっと笑った。
「光秀さんでも妬いたりするんですか?」
「さあな」
「絶対妬かないと思います」
「……ご想像に任せよう」
事実がどうあれ、『妬ける』と言われるのは嬉しかった。
「光秀さんに妬かれたら…幸せだな。嘘でも嬉しいかも」
「お前はわかっていないな。簡単にそんなことを言って…」
「だって、本当なんですもん。光秀さんからなら、何されてもきっと平気ですよ。私」
「…では、お前を縛って、俺の城の中に一生閉じ込めてやろうか?」
光秀さんは私の首を片手で優しく撫でて、そんな恐ろしい事をさらりと言った。
軽い口調で言っているのに、何処かリアリティがあって私は止まってしまう。
…冗談だよね?
こくん。
私が息を飲むと、ふっと光秀さんは笑って、私の首から手を離した。
「……光秀さん?」
「嫌だろう?なら、そんなことは軽々しく言わないことだ」
光秀さんは何かを諦めたような目をして、私を見ながら笑いかける。
まるであやすように私に言うその様は、何処か寂しさを感じた。
「…それに、身体は縛れても、心は縛れないものだ」
…そうか。
光秀さんは、熱に侵されないと本音は言えない性格なのかもしれないな。
あれ以来、素直な光秀さんにはお目にかかっていない。
でも、あの時に言われた言葉の数々は私の胸の中で輝いている。
秀吉さんのおかげで聞けたであろう、光秀さんの秘めた想い。
あの告白を、私は忘れないだろう。
「光秀さん、私を縛る必要なんてないですよ?私の心は此処にずっとありますから」
私は光秀さんの胸をとんとんと指差して、にっこりと笑った。
少しほっとしたような光秀さんの顔を眺めながら…。
終わり