第75章 告白〜明智光秀〜
「よお、葉月。久しぶりだな」
「秀吉さん!」
人攫いの件で忙しくしていた秀吉さんとやっと会えた時、もう夏は終わっていた。
「あの時は怖い思いさせて悪かったな」
「ううん、秀吉さんのおかげで助かった人達がいっぱいいますから。ありがとうございました。大変でしたね」
いや…と言葉を濁し、ちょっと複雑そうに秀吉さんは笑った。
「……彼奴とは上手くいってるのか?」
胸が詰まった。
光秀さんとのことが、もう秀吉さんの耳にも入ってしまったのか。
秀吉さんからの気持ちに返事をしていないことがずっと引っかかっていた手前、何と言えば良いかわからなかった。
「…ごめんなさい。私、秀吉さんにちゃんと言いたかったんですけど…」
「あ、いや。別に責めてるわけじゃないんだ。返事も俺から要らないって言っただろ?気にすんな」
「でも…」
「本当に。それに…お前はどうかわからないけど、一緒に帰った夜道はいつもすげー楽しかった。だから、それだけで良いんだ」
秀吉さんは私に優しく微笑んでそう言ってくれた。
私も楽しかったです、秀吉さん。
暗くて怖い道も秀吉さんが一緒なら、平気だった。
いつだって安心して歩けた。
…でも、口には出せなかった。
光秀さんを選んだ私が何を言っても、もう意味はない。
いい子ぶっているような気がしたのだ。
「これからもお前の兄貴として、幸せを祈ってるよ。…葉月、お前と過ごせた夏は今までで一番楽しかった。ありがとうな」
「私も。私も…秀吉さん」
「ん。じゃーな」
それだけ言って、秀吉さんは行ってしまった。
秀吉さんはいつだって、私に光秀さんとの話を振って来なかった。
名前は出しても、それ以外は何も…。
きっと私の気持ちに気づいていたのだろうと思う。
それでも、何も聞かず何も求めず優しくしてくれた。
側にいてくれた…。
「ありがとうございます、秀吉さん」
すごく嬉しかったです。
あなたみたいな人に好きになって貰えて…。
本当に嬉しかったです。
秀吉さんの背中を見ながら、私は涙ぐんだ。
もう秀吉さんは、あの夏の時のように私に笑いかけてはくれないだろう。
それがどうしようもなく寂しかった…。