第75章 告白〜明智光秀〜
私が女中さんから貰った梨を側で切っていると、光秀さんがやっと目を覚ました。
「……葉月か?」
「あ、光秀さん。大丈夫ですか?起きられます?」
私が側に行き、上半身を起こすのを手伝うと手がしっかりと繋がれた。
「ずっと此処にいたのか?」
「はい。信長様に看病をと言われて来ました」
「信長様に?」
「ええ。光秀さんよく眠っていましたね」
「そうだな…深く眠っていた気がするな」
「どうですか?体調は」
「…あぁ、悪くはない」
そう言うと、じっと私を見つめた。
無言の間に耐えられなくて、私は光秀さんから目を逸らした。
この色っぽい空気を払拭したくなり、わざと気づかないふりをして光秀さんに笑いかけた。
「あ、そうだ。梨!梨食べますか?さっき女中さんが持って来てくれて剥いていたんです」
「…そうか。頂こう」
「はい、どうぞ…」
「お前が食べさせてくれるのだろう?」
私が梨が乗った皿を持ったまま固まると、そんなことお構いなしに光秀さんは口を開けた。
光秀さんの口元を見ると、口づけを勝手に連想してしまい顔が赤くなる。
バカバカ。
相手は病人よ。
何考えてんの。
私は自分に喝を入れ、頭から邪念を払うと光秀さんの口に梨を入れた。
するとシャリッと音がした。
「…美味しい、ですか?」
「ああ」
私がほっとしていると、「では…次は手じゃなくて、口で食べさせて欲しい」とさらりと言ったので、お皿から梨を落としそうになった。
あまりにも恥じらいなく言われたので、一瞬聞き間違いかと思ったが、そうではなさそうだ。
「あの…光秀さん、そういうのはちょっと」
「なぜ?お前は俺の看病で来ているのだろう?」
「そうですけど…く、口でなんて」
したことない。
口伝いで人に食べ物をあげるなんて…。