第75章 告白〜明智光秀〜
光秀さんの含みをもたせるような笑みが、好きだ。
何を考えているかわからない光秀さんに翻弄されたい…そんな願望が、私にはあるようだ。
今まで誰に対しても、そんな風に思ったことはなかったのに。
光秀さんの不思議な魅力に、私はこんなにも夢中になっていたなんて。
布団で横になっている光秀さんを側で見ながら、そんなことを思った。穏やかな顔で寝息を立てているのが未だに信じられない。
なんだか別の生き物を見ているような感覚になる。
いつもは些細なことをも見逃さない鋭い目は長い睫毛で閉じられ、惑わすことばかり言う口元は何かを誘うように半開きになっている。
無防備に寝ていても、光秀さんはやっぱり綺麗だった。
…本当に恐ろしい人だな。
寝ていても色気を放っているなんて。
そんなことを思いながら、私は寝ている光秀さんのおでこにそっと手を当てた。
…まだ熱い。
水で濡らした手拭いをおでこの上に置き、ちょっとだけ圧をかけた。
祖母にそうされたのを思い出したのだ。
これが効果があるとは思えないが、少しでも良くなって欲しかった。
光秀さんは時々薄っすらと目を開けて水分だけ摂ると、すぐ眠ってしまう。
私は心配だったが、診察に来てくれた家康は
「疲労からくるただの風邪だから心配ない」
とあっさり言った。
「本当?」
「あぁ、水分だけはちゃんと摂らしてね。あと、何か食べたら薬も」
「ありがとう」
私が笑顔で薬を受け取ると、寝ている光秀さんと私を交互に見た家康は何かを察したかのように
「よくわかんないけど、あんた達上手くまとまったみたいだね」
そう言い残し、帰って行った。