第75章 告白〜明智光秀〜
その日も月が綺麗だった。
満月ではなかったけれど、明るい月の光が空に浮かんでいた。
もう、涙は出てこない。
私は少し微笑んで、月を眺めて待っていた。
まだ胸は微かに痛むけれど、我慢できるくらいにはなってきたな。
ふと、秀吉さんを見つけて私は小さく手を振った。
いつものように迎えに来てくれた秀吉さんは、ちょっと照れくさそうにはにかんで此方に向かって来る。
会うのは、あの告白してくれた日以来だった。
「また迎えに来てくれたんですか?」
「…まあな」
「恥ずかしそうですね」
「お前なぁ。言うか?わざわざ。これでも必死に平常心を保っているんだぞ」
「…そんな風に見えませんが」
「悪かったな」
照れてる秀吉さんが可愛らしくて私は笑った。
秀吉さんは此方をじとっと見ると、笑うなよと言って頭をかいた。
「…ごめんなさい。だって、秀吉さん可愛いから」
「可愛い?!」
「あ、馬鹿にしたわけじゃなくて…何だろう?愛らしい、かな」
「俺を可愛いだなんて言うのは、光秀とお前くらいだな」
光秀と聞くと、未だにドキッとしてしまう。
私は約束したから…ちゃんと忘れようとしている。
あんなことがあっても、光秀さんは本当に何も変わらない。
そんな彼を尊敬すると同時に、なぜか不憫でもあった。
隠し事が上手過ぎて、可哀想になる。
光秀さんはずっとそうやって生きてきたのだろうと思うから…。
「ねぇ、秀吉さん」
「ん?どうした?」
「この間から聞きたかったんだけど、どうして私なの?」
「なっ…」
ゲホゲホゲホ。
急に咳込みだした秀吉さんは口に手を当てたまま、顔を赤くした。
「なんだよ、急に。聞くか?普通」
「だって、気になるんですもん。私、秀吉さんに好かれるようなことをした記憶がありません」
「……お前は、人を好きになる時はいつも明確な理由があるのか?」
その時、また光秀さんの顔が浮かんだ。
そして、小さく首を振った。
「だろ?まあ、好きな所はいくつかあるけどな。何で好きになったかはわからないな。気づいたら好きになってた…って感じかな」
秀吉さんは建前とかなさそうな人だな。
いつだって本音を言ってくれる。
居心地の良さは、きっとそんな部分を感じるから安心するのだろう。