第75章 告白〜明智光秀〜
こういう時は、どう反応するのが正解なのだろう?
『どうしてそんなことを言うの?!』
そう怒って部屋から飛び出せば、光秀さんは追いかけてくれるのだろうか。
それとも
『私はあなたが好きなのに…』と大粒の涙を流して泣けば、光秀さんは考え直してくれるだろうか。
でも、どちらも私には出来ない。
光秀さんを傷つけそうで、何も言葉が出てこない。
ただ、勝手に涙が込み上げてきてしまう。
それを諭されたくなくて、私は下を向きそっと拭った。
「わかり…ました」
そう言うしか私には選択肢が浮かばなかった。
忘れろと言われて、忘れられるような想いじゃない。
でも、光秀さんを責めたってそれは意味がない。
私はやっぱり…光秀さんのことは大切にしたい。
光秀さんはいつだって、俯瞰で物事を見つめる人だから。
私への態度も言葉も、いつだって理性的だった。
そう、それはあの時を除いて…。
彼はみんなを想っている。
どう動けば良いか、彼は考えているのだ。
私がこうやって泣くのも、傷つくのもわかっていただろう。
でも、それでも伝えにきた。
それが正解だと彼が思ったからに他ならない。
それなら…静かに受け入れよう。
「すぐには無理ですが、忘れられるよう努力します。あの、さっきの事で気になったのですが…」
「なんだ?」
「秀吉さんと私のこと、素直で寄り添えて忠誠心があるって言ってましたよね?私にそんな部分があるのだとしたら、光秀さんにもありますよ。自分の中にも同じ所があるから、人は気づくんです。だから、あなたの中にもあります。良い所が…あなたにはたくさん…だから…」
「……葉月」
「光秀さんも素敵な人です…」
「葉月、わかった。わかったから」
涙を拭いながら言葉を続ける私を光秀さんは制した。
光秀さんを困らせるつもりはなかった。
でも、涙が止まらない。
「…ごめんなさい」
「なぜ、お前が謝る?謝るのは俺の方だろう?」
違うんです。
好きになってごめんなさい。
あなたにこんなことを言わせて…ごめんなさい。
頼りない私たちをただ月の光だけが、静かに照らしていた…。