第75章 告白〜明智光秀〜
「私、お酒はあまり強くないのですが…」
「そうだったな。知っている。少しにしておくか」
私に徳利を傾けながら、光秀さんはそう言った。
透明のお酒を眺めながら、私は光秀さんがまた部屋に招き入れてくれたことを喜んでいた。
でも、何処か不安でもあった。
何か言われる。
本能的にそう悟って、怖かった。
お酒を口にすると、やはり鮮明にあの夜を思い出してしまい酔うよりも先に顔が赤くなっていくのを感じた。
「…光秀さん」
「ん?」
「私に何か言うことがあるんですよね。何ですか?」
「まあ、そんなに急ぐな」
焦ったい想いにかられながらも、光秀さんと一緒の時間という事実が嬉しくて私は頷いた。
「どうだ?呑めそうか?」
「…はい」
光秀さんは二人きりだと、言葉がいつもより甘くなる。
それがわかるから、少し期待してしまう。
…女性にはいつもそうしているのかもしれない。
一瞬、そんなことが頭をよぎり胸を締めつけた。
こんな想像だけでも、光秀さんが他の誰かとこうしているのが嫌なんて。
私はやっぱり光秀さんが好きなんだなぁ。
そんな風に自分の思いを再確認していた。
「……あの日もこんな月夜だったな」
光秀さんから溢れたような言葉に驚いた。
覚えていたのは、私だけではなかった。
なかったことのようにされていたあの夜を、光秀さんの記憶にもちゃんとあった。
それだけで込み上げてくるものがある。
私が光秀さんを見つめると、私の視線に気づき此方を優しく見た。
「お前と秀吉は似ている。素直な所も人の気持ちに寄り添えるような優しい所も、忠誠心が強い所も…」
何を言われるか、その瞬間わかった気がした。
「ー…葉月、あの日のことは忘れろ。」
私にそう告げる光秀さんの瞳には、あの夜に見せてくれた熱っぽさはもうどこにもない。
光秀さんらしい、感情のない目だった。