第75章 告白〜明智光秀〜
「……来たか。待ちくたびれたぞ」
私を見て笑う光秀さんの目は、今日も何処か寂しげだった。
でも、いつものように揶揄いを含んだ言い方をされ、ちっとも待っていなかったことがわかる。
光秀さんの部屋に訪れると、彼はお酒を飲みながら月を眺めていた。
…あの時と一緒だ。
この人の少し陰のある所が妙に気になって、私は光秀さんを追いかけて部屋を訪れた。
その時もこうやって一人でお酒を飲んでいた。
私が声を掛けると一緒に呑むかと誘われて、暫く呑んだ。
お酒の力もあり、私は光秀さんに近づくことが出来た。
私は少しでも、光秀さんの寂しさを拭いたかった。
癒してあげたいと思っていた。
だから私から光秀さんの頬に触れた時、唇がゆっくり近づいてきた時も夢のようにしか思えなくて…そのまま目を瞑り受け止めた。
すると、そこから口づけは深くなっていき…私は押し倒された。
やっと現実に引き戻された私が驚いたまま光秀さんを見つめると、光秀さんは「もう帰れ」と言って、おでこにまた一つキスをくれたのだった。
それから二人きりになると、それを思い出してしまい頬が赤くなる。
光秀さんを過剰に意識してしまう。
お酒の席での出来事として忘れることが、私には出来なかった。
あの夜のことを問うことも出来なかった。
…何も態度の変えない光秀さんにそれを聞いたら、もう二度と私とはキスをしてくれなくなるような気がして。
浅はかにもそんな風に思い、私は真相を確かめられずにいる。
「先程、言われたので来ました。あの…」
「…一緒に呑むか?」
あの時と同じ聞き方をされ、胸が高鳴った。
光秀さんの髪が風で揺れ、差し出された盃を考えるよりも先に手が伸びて掴んでいた。