第6章 妹以上恋人未満〜豊臣秀吉〜
「秀吉さん…今、ちょっと良いかな?」
部屋の外から、そっと声を掛ける。
「えっ?!葉月?」
慌てて秀吉さんが出てきて、申し訳ない気持ちになる。
「どうした、こんな夜に」
本当ですよね。
私もそう思います。
「ほら、中に入れ。寒いだろう?お茶淹れてやるから」
秀吉さんの優しい声に癒される。
「うん…」
お茶を淹れて貰い、私は座って、下を向いたまま黙っていた。
う…自分の心臓の音が耳元で聞こえる。
「何かあったんだな」
声が益々親身に、優しげになっていく。
秀吉さんに申し訳ないと思うのに、言う勇気はなかった。
「俺が出来ることなら、なんでもするから」
そう言われ、やっと口が開いた。
「あっあの…」
「なんだ?」
「…を教えて欲しくて」
「ん?」
「口付けの仕方を、教えて…欲しいの…」
「えっ…お前…」
秀吉さんの反応で、益々顔が上げられなくなる。
あまりにも予想外の発言にびっくりしているのだろう。
き、気まずい…。
私は、今すぐにこの場から逃げ出したかった。
でも、私の中の信長様がそれを許してくれない。
どうしよう…。
「ごめんなさい…」
「ごめんなさいって…お前、それは俺じゃなくて」
好きな人にとっとけとか言われるに決まってる。
「秀吉さんしか頼める人がいないの!」
私は、そう早口で言うしかなかった。
長い沈黙。
あぁ、消えてなくなりたい。
泡のように…跡形も無く。
恥ずかしくて、この沈黙に耐えられない。
「わ、私やっぱり帰ります。このことは忘れて下さい!」
立ち上がろとすると、秀吉さんの逞しい手が私の腕を掴んだ。
「…待て。わかった…手伝うよ」
そう言って、私の方を見る。
「きっと、俺ぐらいしか頼めるやつがいなかったんだろ?」
渋々な感じに見えてしまい、私は落ち込む。
仕方ないか、恋仲じゃないんだから…。
私は切なくなり、秀吉さんを見つめてしまう。
やっぱり…私のこと、好きとかじゃないんだな。
妹的な存在にそんなことしたくないもんね。
「そんなにそいつのことが好きなんだな」
私は頷くしかなかった。
もう、好きな人と上手にキスをする為に教わる…という体で良いや。
秀吉さんとキス、出来るなら。
もう、それで…。