第75章 告白〜明智光秀〜
その日は、満月だった。
雲が多く、月は滲んだようにぼやけて輝いていた。
いつものように迎えに来てくれた秀吉さんと、二人で安土城まで歩いていた。
月を眺めていたい私はずっと上を向いたまま歩いていると、転ぶぞと笑いながら秀吉さんが言うので、秀吉さんの着物の裾を掴む。
「えへへ、お城まで掴んでても良いですか?」
「…あぁ。仕方ないな、お前は」
秀吉さんの優しさにすっかり甘えて、秀吉さんの着物を揺らしながら歩いた。
ちょっと苦笑しながらも、秀吉さんは受け止めてくれたのが嬉しくて、私はさっきよりも大きく左右に揺らす。
秀吉さんの隣を歩くのが、私は好き。
同じ方向を見ながらだと、向かい合っている時より話しやすい。
私のくだらない話も頷きながら、時折笑って聞いてくれる二人の時間が楽しくて帰り道はいつもあっという間に城に着く。
私はそっと着物から手を離した。
いつものように二人で城に入ろうとすると、秀吉さんは急に立ち止まってしまった。
「…どうかしました?」
「いや、ちょっと」
秀吉さんは鼻の頭をかきながら、黙ってしまった。
仕事のことかな?
私には話せないことなのかも…。
そのまま返事のしない秀吉さんに首を捻りながらも、私は先に城に向かって歩こうとした。
その時、急に腕を掴まれた感覚がしてびっくりして振り向いた瞬間、私はまた驚いた。
秀吉さんが下を向きながら、私の腕を掴んだまま固まっていたのだ。
「秀吉さん…?」
本当にどうしたのだというのだろう。
具合でも悪いのかな。
「…きなんだ」
「え?」
下を向いたままだから、はっきりとは聞こえず私は聞き返した。
すると、秀吉さんはぱっと顔を上げて私の方を見た。
ドキッとした、その瞬間…
「好きなんだ…葉月」
時が止まった気がした。
それは思いがけない、秀吉さんからの告白だった。