第74章 ひと夏の恋でもいいから〜武田信玄〜
「君は俺が押せば応えてしまうだろう?でも、君の想いを尊重したかったんだよ。そう俺に思わせている、君の方が上手さ」
信玄様は、私が本音を隠すのを心苦しく思っていたのかもしれない。
いつだって、私の気持ちを尊重したい。
優しい信玄様らしい理屈なのだろう。
ということは、私が流されてどうこうなるのは避けたかった…ってこと?
「やっぱり、優しいですね」
「こんな強引な男を優しいなんて言ってはいけないよ。君が優しいからこそ、俺がそう見えるだけさ」
「…でも、一瞬は本気で信玄様になら騙されてもいいって思っちゃいました」
信玄様はくっと笑うと満遍ない笑みを浮かべた。
「それは嬉しいね。潔癖な君をそこまで思わせることが出来たなんて…自惚れてしまいそうになるよ」
「私、潔癖ですか?」
「言い方が悪かったね。筋が通っていないことはしない、真っ直ぐな子だという意味だよ。俺は君のそんな所も気に入っているけどね」
まあ…
ひと夏の恋がしたいって言われたら言われたで、良かったけどね。
そう呟いて、私を見た。
「どういうことですか?」
「ひと夏の恋を延長させるのみさ。ひと夏で終わらせない自信があるからね」
「…すごいですね」
「それはどうも」
信玄様は私には思いつかないくらいに、手札がたくさんあるのだろう。