第73章 甘えるならこんな風に〜徳川家康〜
「…家康だ。家康はお前にかなり甘えていただろう?」
「え!どこがですか?」
私はわからなくて、本気で光秀さんに聞いていた。
どちらかといえば、私の方が家康に甘えていると思っていた。
「家康はな、お前ならどんなに冷たくしてもきっと離れないと思っていたんだ。だから、あんな態度をとった…そうは思わないか?」
「思いません…。家康はただ怒っていただけで…」
「お前の気を引きたかったのだろう」
「…ちょっと、よくわからないです」
「わからないか?まあ、確かに少しは怒っていたかもしれないが…本当は自分のとった態度で、お前が焦って慌てる姿が嬉しかったのだろうと俺は思うがな」
ますますわからない。
理解し難い、光秀さんの見解だった。
でも、思い返してみれば家康は構って欲しがることがよくあった。
わざと反対のことを言って私を慌てさせてきた。
自分の人格や存在を否定するような…そんなことを。
時々ネガティブな言葉を発してしまう、家康を私はほっとけなかった。
「そんなことないよ。家康は必要だよ」
何度かそう言ったことはある。
…あれも甘えていたうちに入るのだろうか?
「身に覚えがありそうだな」
「まあ、なんとなく…ですけど。定かではないです」
「あいつは甘えられないで育ってきた。そんな家康が初めて甘えたいと思ったのが葉月…お前なのだろうな」
目をぱちぱちさせて、光秀さんの話を聞いていた。
俄かに信じ難い。
「そうなら…良いですけど」
「そうだ、と言っているだろう?」
「仮にそうなら、私はどうしたら良いのですか?」
「…受け止めてやることだ。あいつの我儘を何もかも包んでやれ。家康はそれをお前に求めている。全てを包んで欲しい…と。お前にはそれくらい心を許しているのだろう」
「何もかも?」
「そうだ。あいつからはきっと動けない。葉月から手を差し伸べてやることだ」