第73章 甘えるならこんな風に〜徳川家康〜
わかってはいた。
葉月の気持ちは。
純粋に俺を気にかけてくれていると。
毎日、話題を探してきては話しかけてきて、俺を知ろうとしてくれている…って。
あの笑顔に癒されたし、受け入れようとしてくれるのは正直嬉しかった。
ぽろっと溢した辛い過去も、自分のことのように悲しんでくれた。
そう、葉月は…
段々と俺の中で特別な存在になりつつある。
それが怖くもあった。
「あの子とは、もう距離をとりたいんですよ」
「…なぜだ?」
いつか自分から手を伸ばして、何もかも欲しくなりそうだった。
最近、葉月が他の奴らと話しているのを見かけるだけで腹が立つ。
こんな煩わしい気持ちは捨てたかった。
要らない感情だ。
「…別に。関わるのが面倒くさいからです」
「お前も素直じゃないな」
…お前も?
その言葉に引っかかりつつも、光秀さんがこんなに世話を焼くのは珍しく感じた。
「なんなんですか?光秀さん、随分と葉月のことになると必死なんですね」
「…気になるか?」
「別に」
口からは反対の言葉しか出てこない。
仕方ない。
俺の捻くれた態度は筋金入りなんだ。
「…家康、葉月には明日は普通に接してやれ」
「わかりましたよ。葉月、別に気にしてなさそうに見えましたけど?」
「いや、あいつは確実に傷ついていた。葉月はあぁ見えて繊細ですぐに傷つくし、落ち込みやすい娘だ」
わかったように言われ、腹が立った。
確かに、葉月は見た目よりずっと弱い。
笑顔で自分を守っているんだ。
ヘラヘラしているように見えて…ちゃんと何かを感じている。
「…邪魔したな」
言いたいことは言って、光秀さんは去って行った。
「なんなの、本当…」
一人取り残された俺は、そう呟いてまた仕事を続けた。
光秀さんの中でも、葉月は特別なのだろう。
それが恋か友情かはわからないが、気に入らないのは確かだった。