第73章 甘えるならこんな風に〜徳川家康〜
朝、私はポーチから手鏡を取り出した。
笑顔で家康に挨拶をしようと、手鏡を見ながら練習をしようと思ったからだ。
『家康、おはよう』
せめて、それくらいは言おう。
そう思って「家康…」そう言った途端、涙が滲んだ。
名前を口にするだけで、心が沈んでいく。
本当はもう会いたくない。
二度と話したくなんてなかった。
時間と共に、私は家康に怒りが湧いてきたのだ。
なんで急に冷たくなったの?
私のこと、嫌になったの?
…もともと、全然好きじゃなかったの?
少しは好かれているかもと思っていたから…
私は他の子と違って話しやすいと思われているんじゃないかって、
家康は、私には心を開いているんじゃないかって
そう思っていた。
そうとしか思えなかった。
なのに…
なんで?
私は心の中で家康を責めた。
責めれば責めるほど、悲しくなって…
もう、いやだ。
何もかも投げ出したくなった。