第72章 ヤキモチ〜伊達政宗〜
「おい」
後ろから急に政宗に腕を掴まれ、私はびっくりした。
「…何イラついてんだよ?」
わかってはいた。
こんな態度でいたら、逆効果だってこと。
政宗が気にするってこと。
…でも、こんなすぐに私の所に来るとは思わなかった。
「政宗、食事は?」
「…そんなの、後で食うから良いんだよ。それより、さっきの質問に答えろ。お前、さっきからずっと俺の方見てねーよな?」
「そんなこと…」
「じゃあ、こっち見ろよ」
政宗は私を壁側に追い込むと、下を向いたままの私の顎を抑えて自分の方に向き直した。
触れられた部分が熱い。
どうしたら良いかわからず、私は目を泳がせ…政宗を見た。
私は憮然とした顔しか出来ないのに、政宗の顔は穏やかだった。
…良かった。
怒ってるわけではないみたい。
「…やっと目が合った。どうしたんだよ?」
「……何も」
「お前、それが何もない人の態度かよ?気になって仕方ねぇから言え。怒らねーから」
「本当?」
「…何?俺が怒るような内容なのか?」
ちょっと笑って言う、政宗の口調は優しかった。
政宗は私に怒ったりしない。
今までだって、政宗は私に怒ったことなんてなかった。
でも、政宗を不快にはさせただろう。
それは悪かったと思う。
「…ごめんなさい、態度悪かったよね。政宗には怒ってないし、自分にイライラしていただけだから」
「ふーん。何で?」
「何でって…な、内緒だよ」
「内緒?益々気になる。何?俺絡みなわけ?」
「だから、内緒だってば」
政宗は私の顎を固定したまま、ちょっと首を傾げる。
もう少し近づけばキスしてしまうような距離に、心が落ち着かない。
離して欲しい。
でも、離して欲しくない。
葛藤したままの私の胸の内を見透かすように、政宗は笑った。
「……な、なんで笑うの?」
「そんな照れんなよ、襲いたくなるだろ」
「……っ!何言って…冗談やめて」
「俺はマジだぜ?」
ー…わかってんだろ。
そう呟かれて、私はもう降参した。