第72章 ヤキモチ〜伊達政宗〜
こんな日に限って、皆で夕餉なんて…
広間で一人、小さく溜息をつきながら私は座っていた。
いつもなら皆と他愛もない話を楽しめるのに…。
そんな気にはさらさらなれなかった。
さっきから、お箸が一向に進まない。
思春期の娘のように『要らない』『一人で部屋で食べたいから』…とか言ってみたい。
…でも、そんな我儘を言って皆を心配させるのも何か違うよね。
機嫌良くいたい。
せめて、皆の前では。
でも、口角が上がらない。
まだイライラが収まらないのだ。
「……葉月様?」
「え?は、はい」
夕餉中、ぼんやりと器を持ったままの私は、三成くんに呼ばれていたのに気づかずに慌てて返事をした。
「…何?三成くん」
「いえ、先程から召し上がられていないので…。具合でも悪いのですか?」
「ううん、そんなことないよ」
私は笑って口にご飯を押し込む。
そんな私を心配そうに眺める三成くんの視線に耐えられない。
三成くんって…絶対鋭い。
私のチクチクしたこの気持ちにも気づかれそうで、私は早々とご飯やおかずを口に入れ「ご馳走様でした!」と言った。
「…しっかり味わって食えよ。光秀じゃねーんだから」
笑って言う政宗の声が聞こえたけど、私は政宗の方は見ずに「私、部屋に戻ります」とその場から去った。
「なんだ、あいつ」「…さあ?」
そんな言葉が背中から聞こえてきたけれど、聞こえないふりをして私は自分の部屋に向かった。
やっぱり…感じ悪かったかな。
でも、今は政宗の顔は見たくない。
文句を言ってしまいそうだもの。
理不尽な言葉を言って、嫌われたくない。
ー…冷静さに欠けた、今の私は醜い女そのもの。
ヒステリックになりそうで、怖かった。