第72章 ヤキモチ〜伊達政宗〜
きっと、彼は頼めば私を抱きしめてくれるだろうと思う。
想いに応えてくれるかもしれない。
もしかしたら、キスだって…してくれるかもしれない。
その吸い込まれそうな瞳を私に向けてくれるかもしれない。
でも…そんなのは一時だってわかる。
彼はまた何処か遠くに行ってしまうだろう。
他の女性の所へ行ってしまう。
それが似合うし、彼の自由さが好きだから仕方ないのだ。
…でも、私は?
私の心は、そこから動かないだろう。
そう思うから、わかるから…これ以上進めない。
あなたとは、これ以上。
仲良くなんてなれない。
✳︎
「やだぁ〜、政宗様ったらぁ」
女の子の甲高い声と『政宗』という言葉に反応して、後ろを振り返ると政宗と町娘だろうか…知らない女性が政宗に絡んでいた。
納品の帰り道、城下を歩いていた私に飛び込んできた風景は決して気分の良いものではなかった。
政宗の噂は今までも数多く聞いたことがある。
モテるとも、その奔放な女性関係も…
知っていたし、聞くたびに心がザワザワした。
でも…
ただ話を聞くのと、実際に自分の目で見るのは破壊力が違う。
こんなに気分が悪くなるものなのね。
…政宗って、私以外の人にもあんな風に笑いかけるの?
他の子にも優しいんだね。
あんな顔して…話すんだね。
面白くない。
でも、それを私に言う資格はないし怒る筋合いも何もない。
私には…何もない。
何もないんだ。
私は走って安土城に帰った。
何かを振り切るように、唇を噛みながら…ただただ走った。
私、今凄くイライラしてる。
お願いだから…誰も私に構わないで。