第71章 続・しあわせを〜豊臣秀吉〜
まだ雨が続く、梅雨の日…。
久しぶりに会った秀吉さんに揶揄いまじりに
恋仲は出来たかと聞かれ、咄嗟に「はい」と答えてしまった。
あなたに気を使わせたくなかったから。
ううん、違う。
…あなたを好きだと気づかれたくなかったから。
「そいつ、優しい?お前のこと大事にしてくれてるのか?」
「…はい。そう、です…ね」
そう答えるしかなかった私に、あなたは言った。
「そうか。幸せ、なんだな」
そんな風に言われて、壁を感じた。
俺がいなくてもお前は平気だと言われたような…
そんな気がした。
違うのに。
私は…今だって…
あなたがいないと幸せじゃない
ー…あなた無しじゃ、幸せなんて感じないんです
でも、自分でついた嘘だからこう言った。
「…そうですね、きっと」
バカな私。
こんな風に言われて、傷つくなんて。
ちょっとでもショック受けて欲しかったなんて。
…本当にバカね。
「秀吉さんは幸せですか?」
「…あぁ、そうだな」
そう言ったきり、秀吉さんは口をつぐんだ。
いつもみたいに話をしてはくれなかった。
「…秀吉、さん?」
「悪いな葉月、ちょっとまだ仕事があるんだ。また後でゆっくり話そうな」
「あ、はい。また宴の時にでも」
「あぁ」
いつものように優しい笑顔を向けられ、私も微笑み返す。
そうよね。
秀吉さんは私と違って忙しいんだから。
邪魔しちゃ駄目よね。
私はヒリヒリする心を隠すようにその場を去った。
私に恋仲が出来ても、何も思わないんだな…秀吉さんは。
当たり前なのに…。
それがこんなにも悲しくて仕方ないなんて。
歩きながら、涙が頬を伝う。
それを片手で乱暴に拭いながら、私は歩いた。
振り向いてはダメよ、葉月。
この恋は、もう終わったの。
始まってさえいなかったけれど…。