第70章 かざぐるま〜明智光秀〜
城下に出ると、人がいつもより多いのに気づいた。
もうすぐ夕暮れなのに不思議に思い、私はきょろきょろしながら光秀さんに問いかけた。
「今日は、随分と人が多いですね」
「…あぁ。夏祭りだからな」
「夏祭り?!えっ!何処でですか?」
「……あの先の神社だ。行ってみるか?」
「はい、是非!」
なんてラッキーなのだろう。
光秀さんと夏祭りに行けるなんて。
私は思わず笑顔になり、嬉しさを噛み締めた。
「…そんなに夏祭りが好きなのか?」
「好きです。嫌いな女の子なんていませんよ」
「そんなものか」
「そんなものです」
…好きな人と夏祭りに行けるのを嫌いな女の子はいませんよ、光秀さん。
光秀さんにはわからないだろうな。
こんなにはしゃぐ気持ちも
時間が止まれば良いのにと願わずにいられない、わたしのこの気持ちも…
………
神社は、もう人で溢れていた。
段々と暗くなってきた夜を提灯の灯りが眩い光で照らし、急に心細くなる。
光秀さんが消えてしまうような気がして、私は少し光秀さんに近づいた。
光秀さんの着物にそっと伸ばした自分の手をぎゅっと握って止めると、下を向いた。
「どうした?葉月」
「あ、夏祭り…来れて嬉しいです。賑やかですね!」
そうだな、と光秀さんが呟く。
急に恥ずかしくなってきたのに気づかれたくなくて、私はわざと声を大きくしたけれど光秀さんは冷静だった。
やっぱり、デートみたい。
通り過ぎていく男女の楽しそうな姿を見ながら、私はそんなことを思う。
私たちもそう見えるのだろうか?
逢瀬をしているように見えるのだろうか?
でも、手も繋いでないし。
繋ぐ勇気も私にはない。
横に並んでいるだけで、私は泣きそうなくらい嬉しいから。
でも、嬉しいのと同じくらい恥ずかしい。
こんなに緊張してどうしたら良いのかわからない、そんな自分が恥ずかしい。
どんな顔して横にいれば良いの?
夜の灯が光秀さんを照らし、いつもより一層儚げに映った。
光秀さんも
光秀さんと一緒にいる、この時間も…
もしかして、幻なのかもしれないな。