第70章 かざぐるま〜明智光秀〜
会っている時より
会わない時の方が想いが募るのはなぜだろう?
一人歩いている時に空を見上げると、空の蒼さがいつもより胸に沁みて…あなたを思い出す。
雲が柔らかく浮かんでいるのを思わず見つめてしまう、そんな時。
この空をあなたも見ているかしら…なんて思うから。
顔がほころぶ。
胸が勝手に高鳴る。
ー…好きです、光秀さん。
届かなくても良い。
あなたを思う度、幸せな気持ちになるから。
これが、恋なんだ。
いつもの生活一つ一つに彩りができたように華やいで
気づいたら、頬がバラ色になる。
あぁ、幸せ。
この幸せな時間が…
純粋な気持ちがずっとは続かないのも
いつか切なくなってくるのも知っている。
だからこそ、この恋する気持ちに浸っていたい。
あなたが好きで
風が吹いても
雨が降っても嬉しくなるこの気持ちを…
ピンク色で満たされたあなたへの想いのまま、ずっといられたらって思う。
私の中にまだ邪悪な黒いインクは垂らしたくない。
好きなだけじゃ足りなくなる前に、あなたのことが純粋にただ『大好き』という可愛い私を知ってもらいたい。
無邪気に笑う、私を。
どうか見ていて下さい。
✳︎
「光秀さん…」
「…葉月か」
何か書き物をしていた光秀さんに声を掛けた私は、手を止めて此方を振り向いてくれた光秀さんに感動して、言葉が出ない。
「……どうした?」
返事をしてくれるだけで嬉しいなんて、私は本当におかしいですね。
光秀さんは口の端を上げて、そんな黙り込む私に呆れたように言った。
「…目を開けたまま、眠っているのか?」
「ち、違います。ちょっとぼんやりしていただけですよ」
「ほう?ちょっと、か」
含みのある言い方をする光秀さんを、私は上目遣いで抗議した。
でも、光秀さんに揶揄われるのは嫌いじゃない。
構って貰えるのが嬉しいからだ。
「…何か用なのだろう。早く言え。また忘れるぞ」
「そんなに馬鹿じゃないです」
ちょっと口を尖らせると、光秀さんが笑う。
意地悪な顔が少し綻ぶ。
…幸せだな。
光秀さんの笑った顔が好きだ。
意地悪そうでも、呆れていても…。