第68章 しあわせを〜豊臣秀吉〜
「葉月、おはよう」
「おはようございます」
「…なんか具合悪いのか?最近あんまり顔色が良くないな」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そうか?あまり無理するなよ」
…優しい。
今日も優しいな、秀吉さんは。
優しくされればされるほど、最近辛いの。
苦しい。
息をするのもキツい。
優しいあなたが、好きだと気づいたから。
もうすぐ…他の人と結婚する、あなたが。
よせば良いのに、私はつい聞いてしまう。
相手はどんな人か。
逢瀬はどうだったか。
どんな家庭を築きたい…か。
「なんだよ、そんなこと聞いてどうするんだよ」
「幸せをお裾分けして欲しいの。幸せな話、聞くの好きだから」
「あぁー…、そうか?恥ずかしいな…」
そんな風に照れながら、話してくれる。
私は一つ一つ大袈裟にはしゃいで、喜んで、笑って…嬉しそうに聞く。
「素敵ですね」
そう言って微笑みかけると、秀吉さんが言う。
「お前にもそんな相手が出来たら、俺がいつでも聞いてやるからな」…って。
やだな。
そんなこと言わないでよ。
余計に…悲しくなるよ。
「へへ。その時はよろしくお願いします」
そう答えるのが精一杯。
優しくされたいのに。
優しくされて嬉しいのに。
好きなのに。
好きになればなるほど…
こんなにも悲しい。
どうか、幸せになって下さい。
そう祈るしか出来ない私を。
気持ちを告げれなかった私を。
これからも、気づかないで優しくして下さい。
あなたと並んで歩けなくても
生きていけなくても
あなたの幸せな人生を遠くから眺めさせて。
この、安土城から…。