第5章 素直になれなくて〜伊達政宗〜
季節の変わり目に、私は風邪を引いた…。
昨日からなんか頭痛がするなと思っていたら、夜中から咳が出た。
なんだか寒気もするし、食欲もない。
私は、家康の部屋を訪れた。
「風邪だね」
家康には、あっさり言われ、気が抜けたのとホッとして余計に具合が悪くなってきた。
「食欲は?ある?」
「…何も欲しくない」
こんな時、バニラアイスと白桃の缶詰めが食べたい。
でも、そんな物はここにはない。
私は首を振るしかなかった。
「ちょっとでも食べた方が良いよ。食後にこれ、飲んで」
薬を貰ったら、何故かもう治った気になった。
苦そうだから、飲まずにとって置こう。
こっそりそう思って、自分の部屋に戻った。
頭が痛くて眠れない。
でも、寝ないと治らない…。
私は横になっても辛くて、寝返りを何度も打った。
「葉月?入るぞ」
良い匂いと一緒に政宗が部屋に来てくれた。
「起きてたのか。粥、作ったから食えよ」
政宗の登場に、頭痛が和らぐ。
あぁ、政宗は優しいな。
一人暮らしの時、風邪の時は本当に辛かった。
誰かが自分の為に作ってくれる…そういうのに飢えている私は、風邪のせいもあって余計に嬉しかった。
「ありがとう…政宗」
「大丈夫か?」
急に政宗の顔が近づいて来て、思わず目を瞑った。
コツン…と、政宗のおでこと触れ合った。
え?!おでこで熱を計るの?
私は政宗の慣れたその行動に、ドギマギした。
こんなこと、本当にする人がいるんだ…。
驚きよりもちょっと感動した。
しかも、政宗はそういうのがよく似合う。
さらっと女性が喜ぶことが出来るんだ。
「うーん、ちょっと高いか。ま、食って寝れば治るだろ」
そう言って、私に笑顔を向けた。
政宗って太陽のようだ。
明るくて真っ直ぐで、私の心を照らしてくれる。
きっと、みんなの太陽なんだろう。
弱った身体の私には眩しいくらいだ。
「本当に大丈夫か?」
いつもと違う、口数の少ない私に政宗は心配そうに顔を覗き込む。
「食欲、ないって家康から聞いた。」
そう言うと、お粥をふうふうと口で冷まして私に差し出した。
「ほら、口開けろ。卵粥にしたから」
あまりに自然な行動に、私も口を開けた。
雛鳥になった気分だ。
いつもだったら恥ずかしくて口を開けたりはしないと思う。
でも、頭が痛くて思考がうまく働かない。
今日は、素直になってしまいそうだ。