第66章 続・さようならと言えなくて〜明智光秀〜
梅雨の時期は、気が滅入る。
このどんよりとした雲が、私の気持ちをますます暗くしていく気がした。
ポツポツと降る雨を見ていると、自分の心や未来までもが晴れないのではないかって思うからだ。
傘をさして街を歩きながら、空を見上げる。
私は昔から…自分には価値がない、そう思っていた。
周りの人間が機嫌が悪いと自分のせいだと思ったし、そうとしか思えなくてよく落ち込んだ。
そんな風に敏感な自分が嫌いだった。
今もあまり好きではない。
何かを言って相手を傷つけるのも怖くて、かと言って否定もされたくなくて…
意見を聞かれても、口を閉ざしていた。
軍議でもそれは変わらなかった。
私に誰も期待していないだろうし、信長様にも何も言われなかった。
でも、軍議の後に光秀さんはそっと私だけに聞こえるように言った。
「ー…何をそんなに怯えている?」
その涼しい眼差しで見られて、言葉が出なかった。
わからない。
何を私はこんなに怖がっているのだろう。
誰のことも不快にさせたくない。
出来れば、みんなに機嫌良くいて欲しい。
私は、平和でいたい。
戦国時代の、この殺伐とした空気が耐えられない。
欲を出し合い、我を出し合い、争いが絶えない…そんな時代を現代ですら上手く生きていけなかった私がやっていけるわけがなかった。
…帰りたい。
家に帰りたい。
現代に帰りたい。
私は、この怯えている様を否定されたのだと思い、「怯えてなんていません」と答えた。
精一杯、落ち着きを払って。
そんな私に、光秀さんは口元だけで少し笑い此方を見た。
「…別に責めてはいない。聞いているだけだ」