第65章 目が合うと〜上杉謙信〜
まただ。
目が…逸らせない。
この人はいつも私をじっと見つめるから
たまに目が合うと、飛び上がりそうになるくらいに心臓が跳ねる。
だって
3秒…いや、5秒以上は目が合っても逸らさないんだもん。
私はいつも胸がギュッとして、ドキドキして…怖くなる。
謙信様って何もかも見透かすみたいに、綺麗な瞳をしているから。
何でこんなに見られているのかわからなくて、不安になる。
え…?
嫌いなのかな?私のこと。
にこりともしない。
恥じらって逸らしもしない。
ただ無表情で見られるのが、落ち着かないのだ。
小首を傾げながら葉月がその場を去ると、佐助が謙信に声を掛けた。
「謙信様…」
「佐助か。何用だ」
「あの、また葉月さんのこと睨んでました?」
「睨む…?何を言う。見ていただけだ」
「見ていたのですか?明らかに葉月さん、困っていましたよ」
「……葉月は困っていたのか?」
「気づかなかったのですか?」
「ああ。つい、見惚れていてな。葉月が美し過ぎて目が奪われていた」
「……っ」
「佐助?顔が赤いぞ?」
「いや。すみません。俺が照れちゃいました」
「何を馬鹿なことを…」
「謙信様、そういう事なら本人に伝えた方が良いですよ」
「……そうなのか?」
「気持ちは言わなければ伝わりませんから」
「…成る程な」
妙に納得した様子で、謙信は葉月の後を追おうと進んで行く。
「え!今ですか?」
佐助が驚くと、ちょっと振り返り謙信が涼しい顔で言った。
「善は急げだ」
目だけ此方を見ながらそう言うと、颯爽と消えて行った。