第62章 さようならと言えなくて〜明智光秀〜
《光秀の気持ち》
変わった娘だと思った。
平和な世を捨て、俺といたいなどと戯れに言う…
おかしな娘だった。
そんな葉月が急に故郷に帰ったと知らされた。
「光秀さん、帰るなって言わなかったんですか?」
俺の顔を見るなり、家康が急に突っ掛かって来た。
秀吉が止めるのも聞かず、詰め寄る。
家康がこんなに感情をあらわにするとは…
不意を突かれたように、一瞬俺は躊躇った。
「…言ってはいない」
「貴方が…っ、光秀さんが言えば帰らなかったですよ。あの子は。馬鹿で単純なんだから」
「そこまで言うなら、お前が言えば良かっただろう」
「……俺じゃ駄目だってわかってたから、言えなかったんです。でも、言えば良かった。こんなに後悔するなら…言えば良かったですよ」
キッと鋭い目つきで家康が俺を睨み、噛み付くように言った。
「光秀さんなんかやめて俺にしろって!」
家康はそう言うと、まだ怒りが収まらない様子で秀吉の抑える腕を振り切り、出て行った。