第62章 さようならと言えなくて〜明智光秀〜
その後ろ姿を見ていたら、葉月の声が聞こえてきた気がした。
ー……「私が急に消えても変わらなそう、光秀さんって」
「光秀さんって何も動じないだろうなって思ってました。だから、助けてくれた時…驚いちゃって」
そう言って、葉月は何かを思い出したかのように嬉しそうに笑った。
「そこまで、俺は人でなしに見えていたのか?」
「あっ、そういう意味じゃなくて…。私のことで必死にはならないだろうなって。でも、そんな光秀さんが好きなんです。いつだって的確な判断をして、動じたり心を乱されたりしない…そんな光秀さんが」
「私、案外ずっと片想いで良いのかも…。私のことなんて好きにならない、そんな光秀さんが好きなのかもしれないって思うんです。ふふっ、変ですよね。妹には不毛な片想いばかりしてるってよく言われます」
「だから、こうやって光秀さんの心臓の音が聞けるだけで…私は満足です。もう思い残すことなんてない。また襲われて拐われても平気。このまま消えても…光秀さんに二度と逢えなくなっても平気です」
「光秀さん、大好きです…」
こういう時、記憶力の良い自分を呪う。
葉月との会話も一文一句、覚えている。
葉月の笑い声も
柔らかい肌も
褥でなびく髪も
俺を見つけた時に、嬉しそうに微笑む…あの目も。
いつだって、「好き」だと容易く言って、何も求めず、笑っていた…あの娘。
「なかなか残酷な置き土産をしてくれたな、葉月は」
落ち込ませてもくれないのか…
そうしない俺が好きなのだろう、お前は。
「まさに…不毛な片想いだな」